多重債務は怖いものですが、現在では金融機関も、多重債務になるほどの多額を貸し付けてはくれなくなりました。現在では、ローン利用者の年収の3分の1までしか借入れができません。これは貸金業法上の「総量規制」ルールに基づくものです。
貸出しの大事なルール「総量規制」を見ていきましょう。
目次
総量規制の内容を確認しよう
総量規制は、貸金業者に適用されますが、貸金業者とは、消費者金融、クレジットカード会社、信販会社等を言います。銀行は貸金業者ではありません。
2010年より実施された総量規制の内容は、次のとおりです。
- 借り手の年収に対して、その3分の1が貸出し可能な上限
- 貸出額は合算される
- 50万円を超えて貸し出す場合、貸金業者は借り手の年収を調べなければならない
- 他社貸出しを合わせて100万円を超える貸出しをする場合も年収を調べなければならない
- 住宅ローンやおまとめローンなど、総量規制外のローン商品もある
貸金業者は、年収を把握していながら3分の1を超えて貸し出しますと、違法になり、行政処分の対象となります。ですから現在、そのような融資はしてくれません。
総量規制で注意すべき点
総量規制のルールを読んでも、なお思い込みがある人もいるかもしれません。次のような点に注意しましょう。
総量規制は決して、「年収の3分の1までは貸してくれる」という意味ではありません。「信頼のある借り手であっても、年収の3分の1を超えては貸さない」というのが実際の運用です。信頼がなければ、そもそも貸してもらえません。
それから、次の点も忘れないようにしましょう。
- クレジットカードのキャッシング枠も借入れとなる
- クレジットカードのショッピング枠は総量規制対象外。リボ払い・分割払い等、実質的に借り入れをしている場合でも総量規制は適用されない。
- キャッシング枠やカードローンの場合、既存の借入れとなるのは「限度額」であり、現在の借入額ではない
クレジットカードのキャッシング枠は、申込みの際に深い意味なく付けている人が多いと思われます。これも、クレジットカード会社が貸金業者として登録しているからこそ与えられているものなのです。
キャッシング枠の法律上の扱いは、消費者金融のカードローンと完全に同一です。使わないのに持っているキャッシング枠は、新たな融資を受ける際の妨げになります。
クレジットカードのショッピング枠を使い、リボ払いをして、実質的に借金をしている人もいるでしょう。
これはカードローンで借り入れている状態と大きくは変わりませんが、根拠法令が貸金業法ではなく割賦販売法にあるために、ショッピング枠には総量規制は適用されません。
もうひとつ気を付けたいのが、キャッシング枠やカードローンを持っている際の「借入額」の考え方です。
これらの商品の最大の特長は、限度額の範囲内で繰り返し借入れが可能ということです。この性質のローンの場合、「借入額」となるのは限度額です。いつでも借入可能な額が、借金の額として判断されるわけです。
クレジットカードを4枚持っていて、すべてにキャッシング枠を付けているという人も多いでしょう。こういう人の場合、借入れをしている自覚を持っていないかもしれません。ですが、この人の借入れ件数は4件であり、借入額はキャッシング枠の合計である30~80万円程度になるわけです。
クレジットカード会社に電話すれば、すぐキャッシング枠だけ解約してもらえます。キャッシング枠を持っていて悪いわけではありませんが、持っている全部のカードにつける必要はありません。多少整理しましょう。
総量規制から発生するもの
年収の3分の1までしか借り入れできないという事実から当然言えることは、収入のない人に対しては、貸金業者はまったく貸出しをしてくれないということです。
貸すと違法となりますので、無収入の人は借り入れができません。「無職でも借入れできるかどうか」など、調べるだけ徒労に終わります。
逆に言うと、アルバイトでも年金でも、不動産収入でも、なにかしら収入があれば貸し付けてもらえる可能性があるということです。
もっとも年金収入の場合、これを収入として認めてくれる貸金業者の数が決して多くありません。年金は差し押さえが法律上禁止されているため、いざというときの備えにならないためと思われます。
貸金業者も、無職の人にはもともと貸付けはしていませんでしたが、総量規制によって、専業主婦(夫)も借入れができなくなりました。
かつての消費者金融のように、専業主婦に貸し付けることは現在違法となっています。借りる側としても、パート収入などが必要です。
例外的に、収入のない専業主婦が貸金業者から借入れをする方法があります。これは「配偶者貸付」といい、配偶者の年収を審査に加えるものです。ただ手続きが面倒なためか、これを実施している業者は極めて少ないのが現状です。
総量規制と銀行ローンとの関係
貸金業者は、貸金業許可を得ている金融機関です。銀行は銀行法に基づいて営業していますので、貸金業者ではありません。ですから総量規制は適用されません。貸金業者からの借入れとは別枠です。
たとえば年収300万円の人が、銀行からすでに50万円の借り入れをしている場合、貸金業者から100万円の融資を受けるのは違法ではありません。
もっとも、法律の問題とは別にして、消費者金融の審査の際、銀行の借入れをないものとしてもらえるわけではありません。
銀行カードローンには総量規制がないので、年収300万円の人に対して200万貸し付けることは可能です。
ただし、そのような実態が現実に横行していることが知られた銀行は、貸過ぎと世間から批判されるようになりました。現在、新規の融資の際には、銀行カードローンの場合も、総量規制に似た仕組みを自主的に審査に取り入れていますし、収入証明書の提出を求めるケースも増えています。
最終的には銀行の判断によりますが、年収の2分の1または3分の1程度で、融資は上限となる可能性が高いです。また、既存の貸金業者からの借金も審査において当然に斟酌されるでしょう。
総量規制の対象外となる借入れは?
一律に、年収の3分の1を超える借入れを禁じてしまいますと具合の悪いこともあります。次のようなローンは総量規制の対象外となっています。
- 住宅ローン
- マイカーローン
- 高額療養費の貸付け
- 有価証券や不動産を担保にした貸付け
他にもありますが、重要な貸付けはこの程度です。
担保を取る貸付けの場合、総量規制にはふさわしくないといえます。ただしこれらのローンも総量規制とまったく無関係に存在しているわけではありません。住宅ローンやマイカーローンの審査の際、既存の貸付額が多いと不利になりますから、整理しておくことが必要です。
上記は「総量規制除外」のローンですが、これ以外に「総量規制の例外」という貸付けがあります。
- 借り手に一方的に有利となる貸付け
- 緊急の医療費貸付け
- 緊急に必要な費用を支払うための貸付け
- 配偶者と併せた年収の3分の1以下の貸付け
- 個人事業者に対する貸付け
- つなぎ資金
こちらは、一部抜粋ではなくすべてです。
「除外」と異なる「例外」というのは、年収の3分の1を超えた貸付けにはなるが、返済資力があると認められた場合には貸出しが可能となるという意味です。総量規制が最初から適用されないということではありません。
「おまとめローン」という、多重債務になりかけの複数の借金を一括してくれるローンがありますが、これは「借り手に一方的に有利となる貸付け」に該当します。既存の複数のローンがまとまれば、返済も楽になり、金利も安くなるので一方的に有利だといえるでしょう。
その他、医療関係などは重要ですので、例外扱いとなります。
「配偶者と併せた年収の3分の1以下の貸付け」というのは、先に取り上げた「配偶者貸付」のことです。取り扱っている業者は少ないですが、自らの収入のない専業主婦(夫)でも、配偶者の収入があれば借入れが可能です。
個人事業者に対する貸付けとして、事業者用カードローンなどがあります。これは消費者金融等で「総量規制外」だといって宣伝をしています。個人事業者の借入れの場合、事業に使うものと個人のものと両方の借入れが含まれるわけですが、どちらに使ってもいいことになっています。
総量規制に違反したらペナルティは?
総量規制は、年収の3分の1を超えて借り入れることができないという内容ですが、現に年収の3分の1を超えて借り入れてしまったらどうなるでしょうか?
利用者にはペナルティはありません。総量規制は、貸金業者に対するものだからです。年収が下がってしまうことにより、結果的に年収の3分の1を超えた借入れになることもあります。引き続き返していけば問題ありません。
もっとも、ローン申込みの際に収入を多く、既存の借入れを少なく申告して、貸金業者を誤認させて借入れを受けたのならば、それは刑法の詐欺罪に該当する可能性があります。
総量規制の評価
金融に規制がかかるときは、必ず議論があります。
金融はできるだけ自由であるべきで、規制が多いと本当に借りたい人がいざというとき借り入れできずに困るということ、借入れできなくなった人は闇金に流れるだけだということが、まことしやかに言われます。
かつてグレーゾーン金利が撤廃されたとき、同じような議論がありました。グレーゾーン金利は政策で廃止されたものではなく、最高裁判決を受けてのものでしたから粛々と進められました。
その結果、闇金の暗躍が増えたという事実はありません。過払い金請求が流行り、それで倒産した貸金業者もあったものの、グレーゾーン金利の撤廃は妥当であったと評価されているようです。
同じように、総量規制が始まって8年経ち、さらに銀行の貸出しにも締め付けが掛かっている現況も、比較的肯定的に受け止められているようです。
サブプライムローンが流行ったようなアメリカのような、国民が借金漬けのような道には、日本は進まないようです。また、それが支持されているのでしょう。